【米中の貿易戦争は「壮大なチキンゲーム」 前米国務長官が懸念】
米中貿易戦争が激化している中、アントニー・ブリンケン前米国務長官がCNBCのインタビューで、トランプ政権の関税政策を巡り、中国と追加関税の応酬が続く現状を「壮大なチキンゲーム」と表現しました。
要するに、「壮大な度胸試し」というわけです。
【関税ショックの連鎖で変わる世界、勝者は米国か中国か-予断許さず】
そして、この米中の貿易戦争は「米国が勝つ」という意見もあれば「中国が勝つ」という意見もありますが、専門家の間でも意見が割れているようです。
どちらの意見にも、それなりに説得力があると思われるのですが、ここでは、それらを整理してみたいと思います。
【米国が勝つ】
・米国が相互関税を発表した時点では「米国 対 世界」の構図だったが、中国が反撃に出たことで「米国 対 中国」の構図に変わり、その後、米国が70以上の国々と交渉する姿勢を示したことにより、「世界 対 中国」の構図に移行したから。
・中国の米国向け輸出は中国GDP(国内総生産)の3%である一方、米国の中国向け輸出は米国GDPの0.5%しかないから。
・中国がハイテク製品の生産に欠かせないレアアースを輸出規制しても、米国はレアアース世界第2位の生産国であるし、オーストラリアやタイからもレアアースを調達できるから。
・中国が「元」の切り下げでこの状況を打開しようとしても、中国のエネルギーと食料の輸入コストが倍増するとみられているから。
・中国が保有する米国債を利用して米国に経済的打撃を与えようとしても、これは「ドル安元高」に繋がり、米関税対策としては「逆効果」になるから。
【中国が勝つ】
・トランプ米政権が、発動したばかりの相互関税をわずか13時間で部分凍結し、米国に交渉を持ちかけた国・地域に90日間の停止期間を設けると明らかにしたが、これは「米国債急落が引き金」となっており、米国債を大量に保有する中国に対して、米国は「金融市場の動揺」が弱点となっているから。
・世界各国にとって、米国と中国のどちらがより大きな貿易相手国かというと、多くの国にとって、中国が最大の貿易相手国であるのが現実で、多くの国は中国を選ぶであろうことが予想できるから。
・米国が輸入している製品の多くは「低い労働コスト」に依存して生産されているため、それらに関税を掛け、生産拠点を米国内に戻したところで、米国人は低賃金では働かないので、米国産業の復活に繋がらないから。
・AI(人工知能)は米国よりも中国の方が今はもう優れており、客観的に見ると中国の技術レベルは世界最高レベルで、特許取得数だけを見ても、2021年で日本や米国が20万件のところ、中国は140万件で7倍となっており、貿易戦争は技術戦争でもある中で、中国の方が優勢だから。
・トランプ米大統領は、「報復措置をしてきた中国に対しては関税125%に引き上げる」と言ったが、そのすぐ後に「私は習近平が好きだ、尊敬している」と表明し、かつ「習近平は世界で最も賢い人物の一人」だとまで絶賛しており、まるで勝算がないことを悟ったかのようであったから。
さて、上記のように、どちらの意見にも、それなりに説得力があると思われるのですが、市場はどう反応したのでしょうか?
【米国の国債・株・為替が「トリプル安」 相互関税発動で】
なんと、米国は国債・株・為替のトリプル安となり、資金逃避の様相を呈しました。
そして、トリプル安という状況は、市場が米国に対して「NO」を突き付けているということで、米国から資金が抜けることで「景気後退」を招きかねないと言えます。
また、このトリプル安という状況は、「米国の劣勢が見抜かれたからだ」とも言われています。
では、この貿易戦争は「中国が勝つ」と思われそうなところですが、そうすると以下のようなニュースが報じられました。
【米中関税協議、中国が申し出 トランプ氏「ディール実現可能」】
先週木曜日、トランプ米大統領は米国が中国に対する大規模関税を発表して以降、中国側から協議の申し出があったと明らかにしました。
また、米国は中国と関税について協議を行っているとし、中国との「ディール(取引)」は実現すると思うと語ったのです。
ですので、今後まだまだ、どうなるか分からないといった感じです。
そうかと思えば、今度は以下のようなニュースも報じられました。
【パウエルFRB議長解任シナリオ、影響過大で市場は織り込めず】
トランプ米大統領がFRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長への退任要求に踏み込んだのです。
また、トランプ米大統領は「今すぐにでも利下げすべきだ。パウエルは一刻も早く解任されるべきだ」と批判しており、パウエル議長の解任が「金融市場の不安定化を招くリスクがある」として、市場ではかなり警戒されています。
結局のところ、多くの識者も指摘するように、「先が読めない」のがトランプ米大統領の特徴で、そうである以上、決め打ちをしないことが肝要です。
市場では「リーマン・ショック級の金融危機」を指摘するような声もありますし、いつ何が起こってもおかしくないと考え、相場は引き続き慎重に取り組んでいきましょう。