「たった一人に振り回される相場」
市場では最近、このようなことが頻繁に言われるようになってきました。
「たった一人」とは、もちろんトランプ大統領のことです。
「32兆円相当の中国製品に10%の追加関税を課す。9月1日に発動する」
・・・(ダウ280ドル安)
「制裁関税について、特定品目の発動を12月15日に先送りする。先送りするのは、クリスマスシーズンのためにやる」・・・(ダウ372ドル高)
上記は一例ですが、「トランプ大統領の一言」によって株価が急落したり、急騰したりを繰り返しているのが最近の相場の特徴です。
もちろん、為替等の他の相場も影響を受けています。
先週は、わずか1~2時間の間にドル円が2円弱急騰した場面がありましたが、「原因がよく分からない」「端末の数字の押し間違いか?」といった声が上がり、一方で「トランプ大統領の一言が原因か?」といった声も上がっていました。
市場は混乱している様子でした。
そのような中、マーケットを見て40年になるという元ロイター通信編集委員の鷲尾(わしお)さんは、「これほど見通しがつかないのは稀なことだ」「トランプ大統領が気分次第で、ツイッターでつぶやくと世界中の市場の流れが変わってしまうのだから始末に負えない」と語っています。
また「中国を為替操作国に認定したのをはじめとし、他国に対しても通貨安を誘導していると非難しているが、トランプ大統領こそが為替操作の真犯人だ」とも語っています。
私も鷲尾さんの言う通りだと思います。
さてこのような中、「トランプ大統領が国家非常事態宣言を出し、無理やりドル安介入をする」という噂が飛び交っています。
もしそうなれば、市場は再び混乱するでしょう。
一方で先週の14日、ダウは逆イールド(長短金利の逆転)で悲観一色となり、800ドル安となりました。
「逆イールド」については、6月のコラムでも説明させていただきましたが、再度説明したいと思います。
例えば、お金の貸し借りで「今日借りて明日返す」といったような場合、金利はほとんど無視されると思います。
しかし、もしも「今日借りて10年後に返す」といったような場合、通常「金利がいくらか」という話になってくると思います。
両者の比較でも分かるように、「借りている期間が長いほど金利が高くなる」というのが普通です。
ちなみに、国家が借金をする際に発行するのが「国債」です。
国債の購入者は、国債を購入することによって「国家にお金を貸す」ということになりますが、そのかわり「利息(金利)」を受け取ることができます。
そして「国家にお金を貸す」期間については、2年や10年など様々な期間がありますが、期間が満期に達すれば、元金が国債の購入者に戻ってくる仕組みです。
ここで上記の2年と10年を比較した場合、「2年貸す」のと「10年貸す」の違いですから、当然「10年貸す」方が、金利(利回り)が高いのが普通です。
この事を踏まえた上で、「イールドカーブ」とは2年、10年など期間の異なる複数の国債における金利(利回り)の変化をグラフにしたもののことです。
そしてこの「イールドカーブ」に注目した時に、もしも2年と10年の金利(利回り)の差が「ゼロ」だったら、「おかしい」ことが分かると思います。
ましてや、「2年(貸す)」金利が「10年(貸す)」金利よりも高い「逆転状態」だったら、「非常におかしい」ことが分かると思います。
上記が「逆イールド」の説明になりますが、「おかしい」ものはやはり「おかしい」わけで、逆イールドはリセッション(景気後退)の前触れとされています。
先週14日のダウは、逆イールドでリセッション(景気後退)が強く意識された結果、800ドル安となったわけです。
このような全体像を考えてみますと、今後も「トランプ大統領の一言」によって、相場が振り回されるであろうことは十分予見できますが、しかし一方で「トランプ大統領の一言」を追いかけていたら、やはり相場と共に振り回されることになりますので、大事なのは「中長期でどうなりそうなのか?」という視点だと思います。
「中長期」で考えますと、昨今の世界は「不安定」がキーワードになると思います。
香港では相変わらずデモ隊と警察の衝突が報じられていますが、ウォール・ストリート・ジャーナルは「中国は香港のデモ隊の背後に米国の黒い手が控えていると主張」と報じました。
また中国メディアも「イラクでの経験を持つ政権転覆のスペシャリスト」として知られる米外交官のジュリー・イーデ氏とデモ隊の主要メンバー達がホテルのロビーで会っている証拠写真を掲載しています。
米中の争いは、香港のデモにも関連しているようです。
一方でドイツでは先週15日、同国1位のドイツ銀行と同国2位のコメルツ銀行の株価が最安値を更新したと報じられました。
また鉱工業生産も10年ぶりの落ち込みで、ドイツの苦境が目立ってきています。
欧州では他にも、スペインのバンキア銀行、イタリアのウニクレディト銀行などの株価も過去最安値付近で推移しており、銀行株のパフォーマンスが業種別で最悪になっているようです。
イギリスに至っても、GDP(国内総生産)がマイナス成長になったと報じられています。
このような状況を考えますと、やはり先週のコラムでもお伝えしましたが、「世界の不安が招く独歩高」ということで、中長期的にもしばらく円高トレンドが続きそうだと思います。
引き続き頑張っていきましょう。