日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕された事件が、連日大きく報道されています。
この事件は海外でも大きく報道されています。
直近のニュースでは、2008年に通貨のデリバティブ取引で発生した約17億円の私的損失を日産に付け替えようとした問題が日銀に飛び火した、という情報まで出てきています。
しかしこの事件は、どうも色々と報道されている以上に、はるかに複雑な背景があるようです。
「複雑な背景」を考えるにあたって押さえておきたいポイントは、カルロス・ゴーン会長が日産、ルノー、三菱自動車の3社連合のトップであり、3社の経営にかかわる権限がゴーン会長に集中していたという点です。
ちなみに、3社連合の2017年の世界販売台数は約1061万台で世界首位です。
ウォール・ストリート・ジャーナルが「国家の政治が絡んでいなかったとは考えにくい」と報じていますが、実際にルノーの筆頭株主がフランス政府で、フランス政府が3社連合をルノー主導で合併するよう推進していたそうです。
そしてこの実現を条件に、フランスのマクロン大統領はゴーン会長にルノーCEOの地位を2022年まで保証することを約束していたそうです。
そのような中、いまフランスとアメリカの関係が相当に悪化していると言われています。
関係悪化の引き金となったのはトランプ政権が仕掛ける貿易紛争で、マクロン大統領は「フランスはアメリカの奴隷ではない」と不快感をあらわにする一方、アメリカとの同盟関係を見直す姿勢を明確にしています。
さらに、アメリカを機軸にしたNATO軍に代る「欧州軍」の創設を訴えています。
一方で、フランスがマクロン大統領になってから、中国が急に歩み寄っていると言われています。
そしてフランス政府も中国の魅力的な市場を取り込もうと、その懐深くに入り込んでいっていると言われています。
現在、中国は国家戦略である「中国製造2025」で製造業大国を目指して驀進(ばくしん)しています。
一方、ルノーの主要な市場は中国で、関係も深くなっています。
さらに日産は先端的な自動運転技術を開発し、三菱自動車のグループ企業である三菱重工は航空自衛隊の「F2」や「X2」といった戦闘機を製造しています。
つまり、ルノーと日産、そして三菱自動車が統合した場合、ルノーを通じてこうした先端的なテクノロジーが中国に流れてしまうわけです。
なにより、自動車産業は中国軍の近代化をさらに進める最先端技術の宝庫です。
これが中国側に渡ってしまえば、アメリカにとって安全保障上の脅威となる事を意味します。
これを阻止するために、トランプ政権がルノー、日産、三菱自動車の統合の動きにストップをかけたのではないかと一部の専門家達の間で言われています。
そのような背景もあって、今回の「カルロス・ゴーン逮捕」に繋がったのではないか、という事です。
そして同じ文脈でアメリカの「国防」を考えますと、トランプ政権が現在の「保護貿易政策」を変更することはないだろうと言われています。
なぜならば、これまで続けてきた「自由貿易」によって、アメリカの製造業が空洞化したからです。
その結果、最先端の兵器製造にはなくてはならない部品の供給は、今や中国を中心とした海外に完全に依存した状態だといいます。
これは「国防」という観点で考えた時に、とても脆弱だと言えます。
したがってアメリカの軍事的覇権を永続化するためには、国防産業の再建が必要で、そのためにも製造業を弱体化させた原因である「自由貿易」を阻止しなければならないのです。
実際に、先日もトランプ大統領は「米中貿易摩擦は長期戦になる」との発言をしていました。
今回、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われた首脳会談では、貿易戦争を「一時休戦」することで一致しましたが、アメリカが事態打開のために残した猶予期間は「90日」しかありません。
そしてその間に交渉が妥結できなければ、アメリカは中国への追加関税を発動するとの事なので、楽観できないと思います。
このような背景を踏まえて、今後の相場がどうなるかという事ですが、活動歴40年の金市場専門家は「米中貿易戦争で金価格は天空まで高騰」と言っています。
一方で、直近のブルームバーグは「円は今後上昇へ、著名通貨アナリストの見解一致」と報じており、円高予想を伝えています。
私もこれらの予想が正しいのではないかと思っています。
今後の相場観の参考にしていただけたら幸いです。